[VÉGA] J.デムス(pf) / バッハ:ゴルトベルク変奏曲B.988
商品コード: 1309-005
商品詳細:聴く盤によって演奏の印象が大きく変わる、それがアナログの恐ろしくも面白い所。仏プレスは米/日本プレスとは全く音質が違う。また、この録音はグールドやテューレック(HMV)より古い。つまり現在の我々が基準としている名盤がまだ存在しない中での録音だ。今考えると先駆者的感覚。恐らくマイペースで演奏したのだろう。スタイリッシュとは言えないが、テンポも良く、何となく親しみが持てる。左手の低音がはっきりと響き、話題にならないのが不思議なほどの秀演。デムスは1953年1月にウィーンでこれを録音している。これから2年半後の1955年6月にグレン・グールドが同じ曲を録音し、翌1956年米COLUMBIAから発売されたLPは60年以上の歳月を経過した今尚、その衝撃を保ち続けてる。それに比べデムスの録音は全く逆で、録音の存在すら知られているとは言い難い状況である。1950年代初期にWESTMINSTERでは約3人のピアニスト(デムス、スコダ、ジャノリ)にバッハの鍵盤作品を割振って短期間でメジャー曲録音を完成させた。「ゴルトベルク変奏曲」の担当になったのはデムスであった。その経緯は不明だが、それまでのピアノで演奏された「ゴルトベルク変奏曲」は多くはなかったはずである。改めてこの演奏を聴いてみると、グレン・グールドの演奏とは確かに異なるが、しかし、これは1953年時点では歴史的名演と言って過言ではないほどに洗練された秀演であることは間違いない。デムスはこの録音を行うに当たり、多くの時間を費やしたことは間違いないだろう。サンプルとなる録音は本当に僅かしかなかったはずである。デムス以前はチェンバロで演奏すべき曲という暗黙の了解があり、ワンダ・ランドフスカ(1930/40年代)、ラルフ・カークパトリック(1952年)と、多くがチェンバロによる録音であった。一つだけ1947年ロザリン・テューレックが米ALLEGLOに録音したピアノ演奏がある。筆者の記憶ではデムス以前のピアノ演奏はテューレックの1種しかない。デムスの演奏からはテューレックの影響は殆ど感じられない。参考にしたかもしれないがその程度だろう。つまりこの時デムスはまだやった人の少ないことに挑戦したことになる。その結果は立派であると言いたい。グールドが現れてデムスの「ゴルトベルク変奏曲」は忘れ去られたが、グールド以前においては画期的な出来事だったのである。今聴くとシンプルで作為のないあっさりした素朴な演奏である。しかし決してつまらない演奏ではない。真摯で実直な美しい演奏であり、ある意味洗練されているとしても過言ではない、よく考え抜かれた演奏なのである。
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