先日、関東で起きた地震により弊社店頭のモーツァルトのリトグラフが落下、
額縁のガラスが割れて店内に飛散するという由々しき事態が起きました。
しかし、禍福は糾える縄の如し。
予備の額縁を探していたところ、予想だにしないレコードが見付かったのです。

それは、現在もロンドンで活動を続けるヴィンテージLPのレプリカ専門レーベル、
「The Electric Recording Company」が十数年前に300部限定で作ったレコードです。
弊社代表が立ち上げて間もなくの同レーベルを訪ねた折に入手したものが、
一度も針が通されぬまま箱に収められ、10年以上の長きに渡り眠っていたのです。

このレーベルが製作するレプリカには「こだわり」以外の何物も存在しません。
EMIやDECCAなど原盤元の許諾を得て「オリジナルのマスターテープ」を音源として使用。
そしてデジタル機材はおろかトランジスタを使用した機材すら排除し、
カッティングマシンに至るまでヴィンテージの「真空管機材のみ」を使用し製作しています。

このページでは弊社代表のコメントと共に、
弊社の棚奥から発見された三つのタイトルをご紹介いたします。
すべて「一度も針を通したことのない」新古品となります。
各一点ずつの販売となりますため、売り切れの場合はご容赦ください。


ERC社製レコードの販売によせて
高荷洋一 記


筆者がロンドンの『The Electric Recording Co.』(以下、ERC)を初めて訪れたのは、
ERC社が創業を始めて1年後くらいの2013年だったと思われる。
当時、ERC社の第4作となる「パリのモーツァルト」が出来上がったばかりの時期であった。

取引があったロンドンのレコード業者の友人が偶然にも、
ERCの創業者Pete Hutchison(ピート・ハッチソン)氏だったのだ。
招かれたWestbourne Studios(ウェストボーン・スタジオ)は、
ノース・ケンジントンにある大きな倉庫のような建物だった事を覚えている。
筆者はそのレコード業者と共に同スタジオを案内され、じっくりと見学をした。

まず驚いたのは、使われている音響機材の一式が、
1950年代のEMIスタジオで使われていたものと同じであるという点。
マスターテープを再生する真空管式レコーダーはデンマークのライレック社「TR 18」。
調整卓の下の扉を開けると、オルトフォン社の真空管式アンプ「GOS」などが並ぶ。
カッティング・マシーンも当時のEMIのスタジオで使われていた機材であり、
使用するカッターヘッドはオルトフォン社の「DSS 601」だと、
細部の拘りまで紹介してくれた。

余談だが、スタジオで作業をしていた技師は予備として置いてある、
ノイマン製のカッティング・マシーン「VMS 70」を指さし、
こちらでもカッティングを行ったが「お話にならない」音質だったと明かしてくれた。
(VMS 70は1970年代製。現在も世界各国で使われている業界スタンダード機である)

彼らの自慢はヴィンテージ機材だけではなかった。
むしろ、電力会社から特注で引いている電源が大事だという。
窓から覗くと、確かに建物のスタジオのある壁に、
見たこともない極太の電源ケーブルが刺さっていた。
音質の決め手はこの電源ケーブルであると言うのである。

また、当時の機材を入手し修復・再生(レストア)することに成功しても、
微細な扱いに関しては不明点が多かったという。
そこで老齢によりイタリアで隠遁していた元EMIのエンジニアを口説き落とし、
ERC社の若手エンジニアに彼の持つノウハウを伝授してもらったそうだ。
手間も費用も、どう見ても単なる「こだわり」を越えており、
音質に対する執念に恐れをなした次第である。

そして、ERC社のレプリカは音質だけでなく装丁も徹底的に追及する。
現代の印刷技術では再現できない当時の質感を再現するため専門の活版職人に依頼し、
箱のデザインから内袋、リブレットの紙質、果ては装飾に使われるリボンに至るまで、
すべて当時と同じ手法を用い、入手しうる限りの同等に近い材料を厳選し、
本物そっくりに製作している。

中でも記憶に残っているのは、
1960年代前半まで内袋として使われていた「油紙」についてである。
普段見ているヴィンテージLPに使われているものより、
ERC社が作った油紙は明らかに「色が白い」のだ。
その点について質問したところ、発売当時の本来の色はこちらであり、
いま見られる油紙は50年以上の経年劣化により変色した物なのだという。
妙に納得した次第だ。

これまでにも音質や装丁に予算をかけ、
それらしいレプリカを製作するレコード会社は存在した。
しかし、ERC社の製作に対するポリシーは、まったく次元が異なる。
それは揺らぐことのない「信条」であり、
英国人が言うところの「プリンシプル」なのだろう。
彼らの徹底した姿勢を、筆者は現地で目の当たりにした。




さて、前述した様な徹底した管理のもとで産み出されたERC社のレプリカ盤。
その音質は如何なるものであろうか。

当時の筆者は「パリのモーツァルト」のオリジナルを聴いたことがなかったため、
L.コーガン(Vn)× C.シルヴェストリ指揮『チャイコフスキー:Vn協奏曲』を
ERCのレプリカ(原盤:SAX 2323)と、仏ステレオ・オリジナル盤(SAXF 137)とで、
旧知のフランスのコレクターと共に比較視聴した経験をここに記したい。

まず、ERC社のレプリカは英オリジナル盤と区別が付かない、
そう言って良いほどの素晴らしいクオリティだった。
対して、仏オリジナル盤は特有のキレのある澄んだ音質で当然の高クオリティだが、
やはり英SAX番号が持つ上品な厚ぼったい膨らみには欠ける傾向を感じた。

もちろん、この違いは国ごとのプレスが持つ基本的な特徴に拠るものが大きいのだが、
ERC社のレプリカは英SAX番号の特徴である「上品で豊かな音場」を見事に再現していた。
しかも当時のColumbia録音が持っていたクリアーな音質は失われていない。

ご存知の通り、再プレスを重ねると音が痩せていくのがヴィンテージ・レコードの常だが、
ERC社のレプリカ盤には再販レコード特有の「痩せた臭い」が無いのが特徴だ。
本家Columbiaの2ndプレスと比較したとしても、
より「オリジナルに近い」のはERC社のレプリカだと断言できる。

この比較視聴で、ERC社が作るレプリカのクオリティの高さに驚いたのと同時に、
英SAX番号のオリジナルが100万円を超える金額で取引されている理由も、
改めて理解できた気がした。

当然、レプリカ盤と英SAXのオリジナル盤が「全く同じか」と問われれば、
物理的に考えてそれはあり得ない。
しかし「オリジナルだ」と言われて聴かされても疑いを持てない、
そのレベルにまで仕上がっているのは事実である。

一つ、1960年代DECCAの技師、Sean Davies氏をチームに招聘している点。
一つ、正式に許可を得たオリジナルのマスター・テープを使用している点。
一つ、当時のEMIが使っていた真空管機材をフルチューニングして製作している点。
一つ、プレスにヴァージン・ヴィニールを使用する最高ランクの工場を厳選している点。
これらの細やかな積み重ねが、確かな「結果」として発露している。
『300部限定』でしかプレスされず現在では入手困難になっているのも、
製作経緯を鑑みれば仕方のない話だろう。

60年以上の年月を経たマスター・テープからでも、
環境さえ整ればオリジナルに近いクオリティが再現可能である。
しかし、莫大な費用と手間を要するため誰もやらない。
そのシンプルな真実が有るだけだ。
それを執念で実現したピート・ハッチソン氏の仕事に、
我々はただゝ敬意を払うしかない。

レプリカ盤にも関わらず高額になる理由をここまで述べたが、
そもそも貴重なオリジナル・マスターテープを苦労して入手した、
ハッチソン氏の気概こそが原点である。
もちろん入手の際に許可も取り付けており、
レーベルからの正式な承認を得てレプリカの製作を行っている。
また、全てのレコードがRIAAカーヴで切り直されているので、
大半のオーディオ装置で「正規のバランス」が得られる。
この「EQカーヴのオリジナルを気にしなくて良い」という点も、思いのほか有り難い。

一度も針を通していない点も含めて、
三点とも弊社が自信を持って推薦できるレコードである。






『パリのモーツァルト』
演奏者:F.ウーブラドゥ, A.v.バレンツェン, S.フランソワ 他
レコード番号:ERC004 (2013年発売)
原盤レコード:フランスPathé / DTX191-7 (mono)
[SERIAL No.064] Factory Sample/関係者配布品
※限定300部の中でも、 関係者用に配布された大変買重なシリアルナンバー入り
備考:7枚組 / 完全復元された化粧箱&附属ブックレットほか、完品。






『バッハ:無伴奏Vnソナタとパルティータ全集』
演奏者:ヨハンナ・マルツィ(Vn)
レコード番号:ERC001-3 (2012年発売)
原盤レコード:イギリスColumbia / 33CX1286-8 (mono)
[SERIAL No.044 · 067 • 093] 067 · 093はFactory Sample
※067 · 093は関係者用に配布された貴重なシリアル番号入り
備考:3枚セット / 附属品の内、帯が誤付属(Vol.1が欠け、Vol.3が重複)






『チャイコフスキー:Vn協奏曲 Op.35 & 瞑想曲 Op.42』
演奏者:レオニード・コーガン(Vn)
コンスタンティン・シルベストリ指揮パリ音楽院o.
レコード番号:ERC007(2013年発売)
原盤レコード:イギリスColumbia / SAX 2323 (stereo)
[SERIAL No.116] 300部限定
備考:完全未開封 ・完品 / 関係者用テストプレス&アセテート盤2枚附属











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